穴倉

王様の耳はロバの耳、

会社に行けた朝のこと

‪今朝、会社に行きたくない…とベッドの中でむずかっていると、なぜか唐突に、中学生の頃委員会でお世話になった先輩のことを思い出した。

 

先輩はべらぼうに頭がよく、シニカルな理屈屋で、特に論戦では容赦がなかった。友達は少なかった。

高校では接点が減った。しかし相変わらず成績はよく小難しい本ばかり読んでいて、友達は少なそうだった。たまたま会った図書室で、先輩将来どうするんですか、と聞いたら「日本をなんとかする」と言っていた。周囲の予想通り日本で一番有名な大学に進学した年、気まぐれに返してくれた年賀状には「能にハマっています」と書いてあった。

 

ふと思い立って先輩の名前で検索したら、思いがけずたくさんヒットした‬。縁もゆかりもない地方で、公共放送のアナウンサーとして活躍していらっしゃるようだった。私のよく知るニヒルな笑いではなく、新人アナウンサーらしい精一杯のスマイルとポーズを決めている姿をみて吹き出してしまった。

先輩、全然似合ってないです。昔の先輩がみたらひどいこと言いそうな笑顔ですよ。でも、同時に安心した。先輩はそこから、日本をなんとかしてくことにしたんですね。趣味:能と狂言と歌舞伎、と書かれたプロフィール欄だけは相変わらず、というか、なんか増えてるな。

 

少し笑ったあと、寝転んだまま両足を高く上げて、反動をつけて起き上がった。会社に行こう。私にはこの国を何とかしたいだなんて大きいことは言えないが、何とかしたいものが一つもないわけではない。あの時「君は何すんの」と聞かれて何と答えたのか、実はもう思い出せないのだけれど。いつか「今何してんの」と聞かれたときは、ちゃんと答えられる私でいよう。行きたくない会社に行って、やりたくないわけでもない仕事をして。

 

こうしたわけで、今日は会社に行けました。おそらく明日も行けるんじゃないかと思っています。