穴倉

王様の耳はロバの耳、

かぜ、ではなく、ふう、である。

 

今日は大学の食堂で「ベトナム風フォー」という期間限定メニューが発売されているのを見つけた。エスニック系の料理を提供する期間のようで、ガパオライスなんかも出ていて目新しい。

さっそく「ベトナム風フォー」を注文してみたのだけれど、よく考えてみるとこの商品名はなんだかおかしい。ベトナム風でないフォーを、私は知らない。というか、最近はやりのフォーは、ベトナム料理として市民権を得ているのではないのか?

 

もしこれが「インド風カレー」であった場合、さして問題は感じない。カレーは日本で普及してかなり時間が経っているし、ジャパナイズされているとも思う。それにカレーは種類が豊富で「パキスタン風カレー」とか「タイ風カレー」もある。その中で「インド風カレー」。うん、これは成立する。

 

一時期はやった「トルコ風アイス」。これもまたきちんと成立した商品だ。アイスといえば冷凍庫から出したては固く、徐々に液状になっていくものだが、なんとそのアイスにねばりが!これは遠くトルコの地からやってきた特別なアイスなんです!という売り手の自信がかいま見える。

 

そこで「ベトナム風フォー」。やっぱりピンとこない。具材は鶏肉と万能ねぎだけだし、どちらかといえばむしろ日本風といえる。ではこの風、はどこからきたのか。フォーをすすりながら考え考え出した結論、この商品は「ベトナム風フォー」ではなく「ベトナムフォー風」なのではないだろうか。つまり、本格的な「ベトナムのフォー」には及ばないけれど、「ベトナムフォー風」のなにかをつくってみましたよ、というエクスキューズということだ。しょせん大学食堂、本格的なエスニック料理の提供なんて誰も求めないだろう。ただメニューに「ベトナムフォー風」と書いてあったら、悲しいかな日本語、ベトナムフォー風の何?ということになってしまう。だから「ベトナム風フォー」。

 

ふうふぉーでもふぉーふうでもどっちでもいいよ、お前は何が言いたいんだと言われそうだ。風、という言葉の輪郭を曖昧にし、”イメージ”のイメージを添える語は、いかにも日本語的で可笑しいな、という気づきがあった、と言って共感してもらえるだろうか。

フォーはおいしかった。次はガパオライスをいきたい。